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お題―朗読―
或る紳士の懺悔 Text:木内 陽
物心ついたころから、僕はあなたの虜でした。

あなたの視線、あなたの声、あなたの仕草
あなたの体、あなたの感情、あなたの心……

僕はあなたが好きでした。
あなたのすべてを愛していました。

あなたは僕の世界であり、
あなたの為に僕は生き、あなたの為に死ねるのなら
これほど嬉しいことはないと心から思っていました。
そしてこの感情は僕が息絶えるまで揺らぐことはあり得ないと言えましょう。

あなたが彼と結婚をするという誓いを立てた日も、
僕は涙を流して祝福し、笑うことができました。
あなたが愛した男をどうして僕が恨むことが出来たでしょうか。

僕とあの子の婚約が決まっても、僕の心はいつでもあなたのものでしたし。
僕はどんなにあの子に愛され、どんなに献身的に尽くされても、
僕はあの子を愛することは決してありませんでした。

僕にとって、世界にあなたさえいればそれで良かったのです。

けれどあの日、あなたが僕に打ち明けたあの秘密を知ったあの時、
僕は例えようのない虚無を覚えました。

そしてあの日初めて僕の想いは独善だったのだと知りました。

あなたの傍で、あなたを見守ることがあなたの幸せを願う人間の役目だと
僕は自分自身をそう偽り、無理矢理思い込むことで、
僕はこの心地の良い立場を保っていたかっただけなのだと気がつきました。

僕は浅墓で狡猾で自分よがりのごく一般的な人間でした。

それでも僕はあなたが好きでした。
あなたのすべてを、本当に愛していました。

あなたの為に生き、あなたの為に死ぬことも厭いません。
あなたの幸せは僕の幸せであり、あなたの望みを叶えることが
僕の生きる最大の価値だとも思っていました。

けれど僕は……
――あなたの理解者にはどうしてもなることができなかったのです。

あなたが本当に望むことはただ一つ、
あなたを理解することだけだったというのに。

どうして僕は最後までそれに気がつかなかったのでしょう。
どうして僕は彼女を止めることが出来なかったのでしょう。
それが僕の人生で唯一の過ちであり、最大の罪といえるでしょう。
あなたの理解者になれなかった僕の人生に一体どれほどの価値があるのか。

僕は未だに知ることが出来ないのです――。 。